エントロピー弾性のシミュレーション

このページにはエントロピー弾性の簡単な説明とシミュレーションがあります。初めに、エントロピー弾性の概要を説明します。次に、ブラウザ上で実行できるシミュレーションを示します。最後に、まとめと実際の例を示します。

1 エントロピー弾性

ゴムを例にしてエントロピー弾性を説明します。弾性と付いていることから分かるように伸縮する現象を考えます。そこで、高校物理のコイルばねと比較しながら説明します。

まずは、金属製のコイルばねを考えてみましょう。
金属のコイルばねの弾性は金属の原子同士の結合によるもので、ばね定数\( k \)のコイルばねを\( x \)だけ引き伸ばすと、力\( F = - kx \)が働きます。つまり、引き伸ばす力が同じ時、ばね定数が大きいほど伸びません。

一方、ゴムを考えてみましょう。
ゴムの弾性は原子同士の結合ではなくて、ゴムを構成する高分子が「長くて、そして細かく折れ曲がりやすい」という性質を持っていることが原因です。この弾性のことをエントロピー弾性と呼びます。そして、温度を高くすると(エントロピー弾性の)ばね定数は大きくなります。つまり、一定の力で引き伸ばされているゴムは温度を上げると縮みます。

2 シミュレーション

2.1 目的

「長くて、そして細かく折れ曲がりやすい」ものを一つシミュレーションして、それがエントロピー弾性を持つことを確認する。

2.2 設定

粒子が一本の鎖のようにコイルばねで繋がっているものを考えましょう。粒子の数は数十個程度を考えます。高分子に比べてかなり少ないですが、これでエントロピー弾性を再現できます。今回はこれをチェイン(chain)と呼ぶことにします。
図1.を表示するには、最新のブラウザが必要です。
図1.粒子9個のチェイン(左端の粒子を壁に固定し右端の粒子を壁と垂直な向きに引っ張っている。)

図1.のように、チェインの端の粒子の位置を固定します。そして、もう片方の端の粒子を一定の力で軽く引っ張ります。引っ張る力を変えずに温度を変えて、伸縮の様子を調べます。

2.3 計算手法と確認方法

メトロポリス法(便利な計算手法)で計算します。しばらく計算すると平衡状態のチェインの長さの平均値を求められます。平衡状態の意味は説明が長くなるのでここでは詳しく解説できませんが、ざっくり言うと十分計算した後の状態です。

チェインの伸縮の様子は平衡状態のチェインの長さの平均値で確認します。ここで、注意しておきたいのは計算を十分続けた後の平衡状態のみに意味があって、途中の平衡状態になる前の状態には(意味がありそうだけど)意味がないことに注意してください。つまり、縮むスピードは気にしなくても良いです。

2.4 実行

温度を変えてチェインの伸縮の様子を調べます。チェインの端を天井に固定して、もう片方を一定の力で下向きに引っ張ります。チェインの\({\rm z}\)軸方向の長さを\(z\)と書きます(ただし\( 0 \le z \le1 \))。長さの平均値を\({\rm E}[z]\)と書きます。もちろん\( ( 0 \le {\rm E}[z] \le1 )\)です。stepは計算の回数を表しています。\({\rm E}[z]\)の計算値が横ばいになれば十分計算をしたとみなします。

温度\( T \)は\( 0.1 \le T \le 10 \)
粒子数\( N \)は\( 2 \le N \le 100 \)でそれぞれ設定することができます。

温度\( T \) :   粒子数\( N \) :
 
シミュレーションを表示するには、最新のブラウザが必要です。 シミュレーションを表示するには、最新のブラウザが必要です。

2.5 結果と補足

まずは、結果を書きます。温度を上げるとチェインは縮み、温度を下げると伸びる(伸びたままでいる)ことが再現できました。

次に、補足を書きます。チェインが縮んでも粒子同士の距離はコイルばねの自然長に近い値を保っています。つまり、粒子の間のコイルばねが大きく伸縮しているわけではありません。ちなみに、ばねで繋いだ粒子の代わりに長さが固定された棒をたくさん(三節棍のように)繋げたものでもエントロピー弾性は再現できます。

3 まとめ

チェインがエントロピー弾性を持つことが再現できました。そして、重要なのは「長くて、そして細かく折れ曲がりやすい」ことでした。

ただし、気になる点がたくさんあると思います(例えば、「エントロピーとはなにか」、「平衡状態とはなにか」、「数式で表現したい」など)。気になっていて勉強したい方は大学で物理を勉強することを検討してみてください。

4 実際の例

ゴムの場合はGough-Joule効果と名前がついています。YouTubeで[Gough Joule]と検索すると動画を見ることができます。

5 参考文献

[1]川勝年洋著「高分子物理の基礎 --- 統計物理的手法を中心に ---(臨時別冊 数理科学)」: サイエンス社, 2001, ISBN:978-4-7819-9979-1.
[2]田崎晴明著「統計力学Ⅰ」 : 培風館, 2008, ISBN-13:978-4563024376.