第11回森田記念賞受賞理由など

オリジナルはこちらを参照.


選考経過等:
第11回森田記念賞(平成27年)の公募に対して、4名の候補者推薦があった。2回の選考委員会(9月8日および10月9日)において慎重審議した結果、地球物理学分野の前田拓人氏と物理学分野の泉田渉氏(年齢の若い順)を受賞者に決定した。


(以下、泉田の箇所のみ抜粋)


受賞者氏名:泉田 渉


受賞の業績:「カーボンナノチューブのスピン軌道相互作用に関する研究」


受賞の対象となった論文:

1. W. Izumida, K. Sato, R. Saito, "Spin-Orbit Interaction in Single Wall Carbon Nanotubes: Symmetry Adapted Tight-Binding Calculation and Effective Model Analysis", J. Phys. Soc. Jpn. 78, 074707 (2009).
2. W. Izumida, A. Vikström, and R. Saito, "Asymmetric velocities of Dirac particles and Vernier spectrum in metallic single-wall carbon nanotubes", Phys. Rev. B 85, 165430 (2012).
3. W. Izumida, R. Okuyama, R. Saito, "Valley coupling in finite-length metallic single-wall carbon nanotubes", Phys. Rev. B 91, 235442 (2015).


授賞理由:
 単層カーボンナノチューブ(CN)はグラフェンを切り取って筒状にした構造を持つが、半径の自由度のみならず、「巻き方」に関する自由度も持つ。従って、CNは多彩なバンド構造を持ち、1次元導体または半導体となる。そのため、基礎物性のみならず応用の観点からも興味を持たれている。CNは炭素で出来ているためにバンド構造に対するスピン軌道相互作用は小さいが、それがどのような効果を持つかについてはこれまで良く知られていなかった。泉田氏はこの間題についていくつかの重要な成果を挙げている。
 まず、参考資料1)では、螺旋対称性を有する系に対してスピン自由度を取り込んだブロッホ関数の定式化を行い、それに基づいたタイトバインディング法による数値計算を系統的に行った。それにより、アームチェアー型と呼ばれるCNではバンドギャップが開くこと、カイラル型ならびにジグザグ型と呼ばれるCNではバンド分裂が生じることを見出した。また、これらの現象がCNの半径や巻き方に強く依存することが示された。これらの結果については、有効モデルを導出することにより系統的に説明することに成功している。
 参考資料2)では、CNのバンドの「谷」と呼ばれる自由度の存在により、電子の速度がチューブに対してどちら向きの運動であるかによって異なる値となることを指摘し、そのことに起因するバンド構造の特徴を明らかにした。参考資料3)では、さらにスピン軌道相互作用を含めたモデルによる解析がなされた。数値計算を通して、特にMetal-1と呼ばれる物質では、二つの谷では異なる軌道角運動量を示すことを示すとともに、そこでのバンドの縮退とスピン軌道相互作用の効果を明らかにした。
 以上の結果は、これまで定量的に考慮されることのなかったカーボンナノチューブに対するスピン軌道相互作用の様々な効果を明らかにしたものである。
 泉田渉氏のこれらの業績は森田記念賞にふさわしいと判断される。