東北大学理学研究科
物性理論研究室 量子多体論グループ

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研究紹介

2チャンネル近藤系の残留エントロピーln√2と複合体秩序



   2チャンネル近藤格子の有限温度相図と秩序変数



    非秩序相と複合体秩序相の1粒子スペクトル

 局在性の強いf電子と結晶中を遍歴する伝導電子の相互作用系は近藤格子として 知られ、重い電子状態や非従来型秩序など多彩な興味深い物性を示す。特に局在 電子よりも伝導電子の方が自由度が2倍のとき、2チャンネル近藤格子と呼ばれ る。このモデルはPr3+やU4+を含む化合物のように、サイトあたり偶数個 のf電子を含む 系を記述する最もシンプルなモデルのひとつである。動的平均場 理論によって解析した結果、伝導電子と局在電子の双方の自由度が結合した量 (複合体)によって特徴づけられる奇妙な秩序相が実現することを明らかにし た。この秩序化によって解消されるサイトあたりのエントロピーを計算すると ln√2に近い値となる。これは不純物2チャンネル近藤モデルの残留エントロピー であり、局在したマヨラナフェルミオンに由来すると考えられてきたものであ る。従って複合体秩序は局在マヨラナ粒子の消失と解釈される。また、伝導電子 の自己エネルギーの時間依存性に注目すると、 複合体秩序は奇周波数秩序とし ても考えられることを示した。

参考文献
S. Hoshino, J. Otsuki, and Y. Kuramoto: J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 044707
S. Hoshino, J. Otsuki, and Y. Kuramoto: Phys. Rev. Lett. 107 (2011) 247202

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トポロジカル絶縁体のヘリカル伝導を利用したスピン制御


ヘリカル伝導があるリング領域での伝導電子のスピン配向

 トポロジカル絶縁体は近年注目されている新しいバンド絶縁体である。バルクでは絶縁体であるにもかかわらず、表面ではギャップレスな表面状態があり電流が流れるという新奇な物質である。トポロジカル絶縁体の表面では、スピン偏極した電流がスピンの向きに応じて、それぞれ反対の方向に逆散乱なく流れる「ヘリカル伝導」が存在する。トポロジカル絶縁体はその特異な性質から新たなデバイスとして工業的な応用が期待されている。我々は2次元トポロジカル絶縁体の端を流れるスピン電流を表現する1次元格子モデルを構築した。この1次元モデルは端状態のヘリカルな伝導を記述するのに適しており、我々はこのモデルを用いて電気伝導におけるヘリカル伝導の干渉効果を明らかにした。量子系特有の電子の干渉という現象とspin Hall effectを組み合わせることで伝導電子のスピンを制御することやスピン偏極した電流を取り出せることが明らかになった。

参考文献
S. Masuda, and Y. Kuramoto: Phys. Rev. B 85 (2012) 195327
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フラーレン化合物における高温超伝導の発現機構


        kz=0のブリルアンゾーンにおけるギャップ関数(bcc)


          kz=0のブリルアンゾーンにおけるギャップ関数(fcc)

 C60分子当たりアルカリ金属を3つ挿入したフラーレン化合物A3C60(A=K, Rb, Cs またはこれらの元素の組み合わせ)は最大38Kの高い転移温度を持つ超伝導体である。中でもCs3C60 は常圧で反強磁性絶縁体であり、圧力下で超伝導体に転移する。この事実はA3C60の物性にクーロン斥力相互作用が大きく寄与していることを示唆している。従来の理論によれば、クーロン相互作用は電子格子相互作用で誘起されるs波対称性の超伝導状態を抑制する。それにも関わらずA3C60が高い転移温度を示すことは大きな謎である。我々は2次摂動で現れるクーロン斥力相互作用の非局所効果に注目してA3C60で発現する超伝導状態の対称性を調べた。その結果A3C60では、クーロン斥力相互作用によってもs波(Ag)対称性の超伝導状態が誘起されることが分かった。このAg状態はA3C60の3重縮退した分子軌道によって形成される多重バンドにより安定化される。A3C60の高い転移温度を有する超伝導状態は、このようなクーロン斥力相互作用の非局所効果と電子格子相互作用との協力によって実現している可能性があると考えられる。

参考文献
S. Yamazaki, and Y. Kuramoto: J. Phys. Soc. Jpn., 82 (2013) 054713
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