強相関電子系の研究で用いる数値計算法

密度行列繰り込み群の方法

 密度行列繰り込み群 (Density Matrix Renormalization Group)は低次元量子多体系の性質を調べるために考案された優れた計算方法の一つです。量子多体問題の難しさは、多体状態の表現に必要な基底数が非常に多いところにあるのですが、この計算法では密度行列を用いて、求めたい多体状態に不要な自由度を効果的に消去して、基底数の増大という量子多体系の本質的困難を解決します。
  DMRGの方法は厳密対角化法、変分法、そして実空間繰り込みの長所を組み合わせた計算法とみなすこともでき、特にこれまでの計算法の限界を超える巨大な自由度を含む系において基底状態や低エネルギー励起、熱力学量、相関関数などを精度良く計算できるところに特徴があります。
 従来の計算法では難しかった低次元電子系の基底状態や低エネルギー励起の精密な研究はこの計算法により大きく進展し、量子スピン系にみられるスピンギャップの正確な大きさや多段t-J梯子模型の詳細な電子状態、近藤格子模型のフェルミ面の大きさやフラストレーションのある量子スピン系の長距離相関関数など、この方法によってはじめて精密に求められたものも多くあります。
 このような量子一次元系の基底状態の研究に加え、古典二次元系やランダム量子スピン系、有限温度量子一次元系、量子二次元系などへのDMRGの応用、拡張も次々となされ、現在では低次元多体系を調べる標準的計算方法としてDMRGの利用が広まっています。

厳密対角化法

 量子多体系のハミルトニアンを多体基底の下で行列表現し、その行列を数値的に対角化することで系の固有エネルギー、固有状態を得る方法です。多体系の基底の数が系の大きさに対して指数関数的に増加してしまうことを反映して、大きな系への適用は困難ですが、厳密な基底状態やそのエネルギーを確実に求めることができます。

変分法

 基底状態の波動関数の関数形(変分関数)を仮定し、そこに含まれるパラメーターをエネルギーが最小になるように決めることで基底状態に最も近い波動関数とそのエネルギーを求める方法です。求まる基底状態のエネルギーは必ず真のエネルギーかそれより高く、基底状態のエネルギーの上限を知ることができます。良い変分関数を知ることは一般に難しいのですが、基底状態の特徴があらかじめ明らかなときには、相互作用が強く摂動論が適用できない場合でも良い結果を与えます。DMRGでは密度行列を対角化して適切な変分関数を自動的に生成します。

実空間繰り込み法

 小さな系から出発して、基底状態に寄与しない自由度を消去しながら少しずつ系を大きくしていく計算法です。与えられた基底の数で非常に大きな系の波動関数を得ることができます。