固体統計物理学講座の紹介(AobaScientia研究室訪問)
固体統計物理学講座(物性理論研究室)には、14名の教員と30名以上の大学院生、研究員が在籍し、物質の示す多彩な性質を理論的に研究しています。私たちが研究の対象にする物質や現象の長さのスケールは約10nmから1mです。10nmという長さは現在の半導体加工技術で工業的に利用されている長さのスケールであり、1mという長さは身近な生物のスケールです。このスケールの世界は、「素粒子、原子核」という非常に小さな世界と「地球、宇宙」という非常に大きな世界の間にひろがっています。そこでは、多くの原子や分子、電子やスピンが互いに影響を及ぼし合いながら運動しており、個々の原子や電子の性質からは想像できない多彩な振舞と構造が現れます。私たちの身近に存在する豊かな自然はまさにこの多様性によって形成されています。この極めて複雑な世界を理論的に分析して理解することを物性理論研究室はめざしています。
具体的な研究対象は自然の多様性を反映して多岐にわたっていますが、注目する現象のスケールによっていくつかの階層に分類してまとめることができます。物性理論の対象となる最もミクロな階層は、原子の構成要素である電子の個別運動を対象としたものです。そこでは、1つの電子の場所は決して確定することなく、様々な場所が重ね合ったものとして存在するという、日常の世界とはまったく異なる不思議な世界がひろがっています。これを支配するのが量子力学という運動法則です。電子間の相互作用は、多数の原子が規則正しく整列した固体において電子の個別運動のエネルギーよりもはるかに小さいエネルギースケールを作りだす役割を果たします。そこに現れる空間運動のスケールは、原子間隔の数千倍にも及ぶことがあり、超伝導や磁性など量子力学の直接的帰結が巨視的スケールで実現されることもあります。このような電子系の研究は研究室の重要なテーマになっています。
少数の原子が集合して分子を形成し、さらにその集合体を構成単位とする物質群は、結晶とは異なる性質を示し、ソフトマターと呼ばれています。この階層では、生体系などでみられる非平衡、非線形の現象など生命活動に繋がる面白い現象があります。そこでは熱的な効果が量子力学的効果を凌駕しているため、統計力学がこのような現象を理解するための基本的道具になります。研究室では、このようなソフトマターの研究も精力的に行っています。
研究室の構成メンバーは、多岐にわたる階層で研究を行っていますが、同時に階層間の交流も非常に活発です。この交流は、しばしばお茶菓子を交えた楽しいものになります。また、物性理論グループとして国内外で最大級の規模を誇り、高く評価されているこの研究室には、海外から理論、実験の研究者が多く訪れています。交流室は、お茶を飲みながら国際感覚を身につけ、他分野を理解するための格好の場所になります。物性理論研究室で、論理的に現象を分析して理解する方法を学んだ大学院生は、卒業後、国内外の研究機関の研究員や教員、製造業の研究所やシンクタンクの研究員、企業コンサルタントとして活躍しています。