Mar 2007

タミフルと研究費(研究者倫理と背景)

タミフルの研究費に,利害関係企業の寄付金が使われていた事実が報道されている.
これを受けて,政府が奨学寄付金に関する指針作りを行うらしい.
http://www.asahi.com/politics/update/0330/009.html

この問題の背景には,公的研究にしめる「公的資金」が少なくなり,
競争的資金として「外部資金」獲得が奨励されている現状がある.

民間企業からの外部資金は,何らかの「目的」から支給される
(でなければ,企業の支出は「背任行為」になるでしょう).
事実,利害関係団体から資金提供を受けた研究は,その利害関係団体
の主張に従った方向にバイアスが掛かることが,科学社会学の研究に
よって判明している(
New England Journal of Medicineなど,多くの
一流科学雑誌に,科学社会学的見地からの検証論文が掲載されている).
仮に,資金提供元の主張と異なる研究成果を出したなら,その後,
研究資金が断ち切られるでしょう.外部資金を断たれることが,
研究者をどれほど困らせるか….
# 出張旅費がなくて「自腹」を余儀なくされている研究者も少なくないのです.

「競争的研究環境」というシステムの下,外部資金獲得を余儀なくされて
いる研究者は,中立性を要求される研究でどのような状況に置かれている
のでしょうか?

JR西日本,福知山線の列車脱線事故の背景と比較・検討すれば,これらの
問題が「奨学寄付金に関する指針」という「ムチ」だけで解決出来る問題か,
明らかになるでしょう.福知山線の運転手に「時刻を守れ・安全を守れ」と
強いたところで,それが「無理なシステム」だったから,あのような事故が
起こりました.だから,今回の事件は,私には氷山の一角に思えてなりません.
事実,私が関わっている電磁波の健康影響に関する研究でも
リスクを評価する立場の政府委員(研究者)に,タミフルと同様の状況
(利害相反)があります.これは健全な状況でしょうか?

「構造改革」という言葉がありましたが,不適切な「公的研究」を生み出す
「構造」を改革せずに放置している限り,根本的解決には近づかないと思います.
ヨーロッパでは,リスクに関する研究は,利害関係から独立した研究ができる
ように,中立性が確保される仕組み(システム)が構築されています.そのため,
日本より遙かに質の高い最先端の研究が続々と行われています.
REFLEX研究
その一例なのです.

# 公的研究には税金が使われている訳ですから,中立性(公平性)が確保され
# なければ,税の無駄遣いになってしまいます.


研究の公益性に関しては,科学技術社会論(STS)からの科学社会学的分析
と議論も急務でしょう.