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リサーチハイライト

  

電荷フラストレーションと電荷のゆらぎ (J. Phys. Soc. Jpn. 84, 023703 (2015) )
   複数の事柄すべてに折り合いがつけられないことはフラストレーションと呼ばれています。 磁性体におけるフラストレーションの研究は古くからなされており、三角格子上の反強磁性体では上向きスピンと下向きスピンを折り合いよく並べられないことが有名です。一方で電荷のフラストレーションについては余り研究が進んでいません。 本研究では相互作用をする電子の電荷とフラストレーションについて調べ、特異な電荷の揺らぎを見出しました。 ここで調べた理論模型では、古典的力により安定となる「古典的な電荷秩序」と、量子的力により安定となる「量子的な電荷秩序」の2種類が出現します。電荷の揺らぎは両者で大きく異なり、「量子的な電荷秩序」では低温でも電荷の揺らぎがなかなか消失せず、波数依存性も小さいことが明らかになりました。 これらの計算結果は、光吸収スペクトルやきX線散乱スペクトルで確かめられると期待されます。

量子的な電荷秩序

量子的な電荷秩序(左)と古典的な電荷秩序(右)のゆらぎ
 

 

 

軌道と新しい共鳴原子価状態   (Phys. Rev. 91 045117 (2015))
   磁性体において強磁性や反強磁性のような古典的な長距離秩序の存在しない場合、低温でどのような量子状態が実現するか興味が持たれています。 ベンゼン環のように最近接ボンドでスピン一重項を形成し、この波動関数が系全体に共鳴する共鳴原子価(Resonating Valence Bond:RVB)状態は、 銅酸化物超伝導の発現機構とも関係が深いと考えられています。 本研究では蜂の巣格子において、磁性イオンの軌道縮退と格子との動的な結合(動的ヤーン・テラー結合)を考慮することで、新しいタイプのRVB状態の実現することを見出しました。 スピンと軌道の自由度が局所的に強くエンタングルした状態(スピン・軌道一重項)と動的ヤーンテラー効果により局所的に軌道自由度が消失した状態(ヤーン・テラー一重項) をもとにして、量子ダイマー模型と呼ばれるフラストレーション系でよく知られる理論模型を構築しました。 この模型を解析することで、二つの局所的状態が量子力学的に系を動き回る``ヤーン・テラー液体相"と呼ばれる状態が実現することを見出しました。この結果は、軌道縮退系のスピン液体物質として注目を集めているBa3CuSb2O9に対する一つのモデルと考えられます。

スピン軌道一重項状態とヤーンテラー一重項状態

量子ダイマー模型の相図
 

 

 

光が変える電子の配列   (J. Phys. Soc. Jpn. 83, 123703 (2014))
   強い光を物質に当てると電子や格子の状態が変化してやがて物質の温度が上がります。温度が上がる前の非常に短い時間で何が起きるか近年盛んに研究がなされています。 本研究では三角格子に電子が配列した電荷秩序に注目して、これに強い光を当てることを数値的に調べました。 三角格子では電荷が隣り合わないようなルールの下で配列すると、つじつまの合った配列が不可能になるフラストレーションがあることが知られています。 このようなもとで生じる奇妙な電荷配列に光を当てると、この配列が壊れて温度が上がるのではなく、他の電荷配列が出現することが明らかになりました。これは光を当てる初期状態だけではなく、当てた後の励起状態にでもフラストレーション効果が効いていることが原因となっていることがわかりました。このような光により物を壊すだけではなく新しい秩序を作る可能性が見いだされ、実験による検証が期待されます。

光による電荷配列の時間変化

電荷配列のフラストレーション