東北大学 物性理論研究室 佐藤グループ

研究内容

私たちは、量子多体系の非線形・非平衡ダイナミクスを中心に光と物質の相互作用に関する理論的研究に取り組んでいます。東北大学 物性理論研究室 佐藤グループでの研究に興味がある方はお気軽にお問い合わせください!


量子系のダイナミクス

私たちの身の回りの物質の中の電子や、原子核の中の陽子・中性子の運動は「(時間に依存する)シュレディンガー方程式」と呼ばれる量子力学の基礎方程式によって記述されます。このシュレディンガー方程式をコンピュータを用いて数値的に解くことで、様々な量子系のダイナミクスを調べることができます。例えば、下の動画では1次元の模型ハミルトニアンに対してシュレディンガー方程式を数値的に解くことで、量子波束のトンネル効果の様子をシミュレーションを調べています。我々のグループでは、このような量子ダイナミクスのシミュレーションを現実の物質に対するハミルトニアンに適用することで、現実世界で起こる非線形・非平衡現象を研究しています。

Animation of tunneling phenomena

量子多体系の静的な構造

私たちの身の回りにある物質は、電子や原子核などの多数の粒子からなる量子多体系となっています。このような量子多体系では、多数の粒子がそれぞれに力を及ぼし合いながら複雑に運動するため、その理論的取り扱いは非常に難しいものとなります。我々の主な研究対象は、このような量子多体系のダイナミクスですが、そのダイナミクスを理解するためには量子系の静的な構造を理解することは極めて重要です。例えば、原子の周期律あるいは分子や結晶の安定構造は、物質の性質を理解する上で基本となる要素です。このような量子多体系の静的な構造は、時間に依存しないシュレーディンガー方程式の解を調べることで理解することができます。しかし、複雑な量子多体系のシュレディンガー方程式を解くことは極めて困難であり、何らかの近似的手法を用いることが常となります。様々な近似手法がありますが、我々のグループでは主に、密度汎関数理論(Density Functional Theory; DFT)あるいは平均場理論(Mean field theory)と呼ばれる手法を用いて研究を行っています。

ここでは、密度汎関数理論により結晶シリコン(ケイ素)を調べた様子を紹介します。結晶シリコンはダイヤモンド構造と呼ばれる結晶構造を持ちます。結晶の断面における電子密度分布を密度汎関数理論により計算した結果を下図に示しました。図中で赤い部分は電子密度が高いところ、青いところは電子密度が低いところを示し、黒丸はケイ素原子の位置を示しています。図を見ると、ケイ素原子の間に電子密度の高い共有結合ができていることを図から観察することができます。

Electron density in the ground state silicon

量子多体系の非線形・非平衡ダイナミクス

我々の研究グループでは、量子多体系の非線形・非平衡なダイナミクスを主な対象として研究を進めています。これは、上に紹介した時間依存シュレディンガー方程式を量子多体系のハミルトニアンに対して適用して、系のダイナミクスを調べることに他なりません。しかし、静的な構造の場合と同様に(あるいはそれ以上に)、量子多体系の問題を直接取り扱うことは非常に困難です。そこで我々の研究グループでは、時間依存密度汎関数理論(Time-Dependent Density Functional Theory; TDDFT)あるいは時間依存平均場理論(Time-dependent mean-field theory)と呼ばれる手法を用いることで、量子多体系に駆動される非線形・非平衡なダイナミクスを研究しています。

ここでは、上で紹介した結晶シリコンに高強度なレーザー光が照射された際に生じる固体内での電子のダイナミクスを時間依存密度汎関数理論によってシミュレーションした例を紹介します。下の動画では、レーザー電場によって電子が上下に揺さぶられるとともに、強電場によって結晶シリコンの共有結合が破壊されてしまう様子を観察することができます。我々のグループでは、このような研究手法により、非常に強い光が物質に駆動する現象を量子力学に基づく微視的な理論に基づき調べる研究を行っています。

Electron density dynamics in silicon

光物性物理学と微視的理論シミュレーション

私たちは普段、光を介して周囲の世界を認識しています。また、夜の暗い部屋を照らす照明や、太陽光からエネルギーを取り出す太陽電池、健康診断におけるレントゲン撮影など、今日の豊かな社会は様々な光と物質の相互作用に基づく技術によって支えられています。光物性理論研究室では、光と物質の相互作用の背後にある微視的な物理機構をの解明し、新たな光科学技術の生み出すことを目指して理論的な研究を推進しています。

最近の光物性物理学分野の研究では、高強度なレーザー光を物質に照射して、様々な光駆動非線形現象、非平衡現象、超高速現象が調べられています。このような興味深い現象の背後では、量子多体系のダイナミクスが重要な役割を果たしています。しかしながら、マクロな実験結果からだけでは、現象の背後にあるミクロな物理過程を理解することが難しい場面は少なくありません。私たちは、量子力学に基づく数値シミュレーションを用いることで、ミクロな電子ダイナミクスを直接シミュレーションし、光が駆動する様々な現象のミクロな機構の解明に取り組んでいます。