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研究紹介

RAFT重合とミクロ相分離

ブロックポリマーをゆっくり重合させながら、 ミクロ相分離でできあがる構造がどのように変化するか調べる研究です。 理論と実験両方から解析しています。






ブロックポリマーとミクロ相分離。

ブロックポリマー(block polymer)とは、 異なる種類の高分子鎖を、化学結合でくっつけたものです。 ブロック共重合体ともいいます。 特に、2つの異なる高分子鎖を、 くっつけた場合は、ダイブロックコポリマー (di-block co-polymer;di は2つ,co はくっつける,を意味します。)と呼びます。

一般に、異なる種類の高分子鎖は、水と油のように、混ざり合うことはありません。 したがって、異なる種類の高分子鎖を、容器に入れると、最初はいくらか混ざっているかもしれませんが、 放っておくと、分離してしまうのです。これを相分離と呼び、 特にこのあと説明する、ミクロ相分離と区別するために、 マクロ相分離と呼びます。
マクロとは、大きいということを意味します。 高分子鎖の大きさ(μm;マイクロメートル,100万分の1メートル)にくらべて、 非常に大きいスケール(mm以上のおおきさ)で分離するので、マクロ相分離です。

それでは、ダイブロックコポリマーを容器に入れたら、どうなるか考えてみましょう。 以下では、ダイブロックコポリマーを、A/Bブロックポリマーと呼ぶことにします。
Aという高分子鎖と、Bという高分子鎖をくっつけた、 ダイブロックコポリマーであるということです。
異なる高分子鎖は、独立に動けるので、マクロ相分離しましたが、 今度は、異なる高分子鎖(A/B)どうしがくっついている、ダイブロックコポリマーです。 マクロ相分離することは、できません。 くっついても、できるだけ離れようとしますから、 高分子鎖の大きさ程度で交互に、Aが多い部分と、Bが多い部分に分かれるしかないのです。 これをミクロ相分離と呼びます。
ミクロとは、小さいということを意味します。 高分子鎖程度の、小さいスケールで相分離するので、ミクロ相分離です。

このミクロ相分離が面白いのは、AとBの長さの比を変えると、相分離する形(構造)が変わるということです。 例を見てみましょう...といいたいところですが、著作権の関係でweb上に相図をのせられません。 論文をとれる人は A.K.Khandpur, S.Forster, and F.S.Bates, Macromolecules, 28 (1995) 8796-8806.
をごらんください。
ダイブロックコポリマーの場合に現れる構造は以下の4つです。

★Sphere構造
この構造は、A/Bの短い方が球状に集まり、 その球がbcc構造 (立方体の四角と中央に配置される構造,bace centered cubic)をとります。

★Cylinder構造
この構造は、A/Bの短い方が円柱状に集まり、 その円柱が、三角格子(2次元平面でみると正三角形)をくむように、配置されます。 円柱に垂直に切ると、どこで切っても同じ、金太郎あめみたいになっています。

★Gyroid構造
奇妙に枝分かれしている構造です。言葉で説明するのは難しいです。 googleで"gyroid"でイメージ検索して下さい。

★Lamellar構造
AとBが交互に層状に現れる構造です。ミルフィーユです。

ここまでを整理しましょう。
★異種高分子鎖を化学結合でくっつけたものを、ブロックポリマーと呼ぶ。
★ブロックポリマーは、ミクロ相分離する。
★異種高分子鎖の長さを、いろいろ変えると、様々な構造が現れる。

何の役にたつの?

上に書いた通り、ブロックポリマーを使うと、本来混ぜ合わせることができない物質どうしを、 巨視的には混ぜ合わせることが可能です。
たとえば硬化/耐熱プラスチックやタイヤなどに使われています。 硬化プラスチックは、固くない高分子鎖と、固い高分子鎖で作ったブロックポリマーを使うことにより、 新たに、『硬い』という性質を持たせることが可能です。

上に挙げた例は、『混ぜ合わせることによって、両方の特徴を生かす』という例でしたが、 相分離構造の『形』そのものを、利用する応用例が考えられています。たとえば、ナノリアクター。
ナノリアクターとは、分子の鎔(いがた)のようなものです。 Cylinder構造の円柱部分を、薬品でながすと、円柱状に穴の空いた構造ができます。 この穴の中で、分子を合成することで、枝分かれのしやすい分子を、 直鎖状分子に合成することが可能と考えられています。

従来の研究。

従来の研究は、ブロックポリマーの"長さの比"と"温度"を設定した時に、 どの相分離構造が現れるか、ということを予言するものでした。 つまり、実際にブロックポリマーを合成しないでも、 どんな相分離構造になるかわかるよ、という研究です。
これはダイブロックコポリマーに限らず、 トリブロックコポリマー(3つのブロックからなるブロックポリマー)や、 枝分かれのあるブロックポリマーに対しても、成功しています。

研究内容
ここまでをふまえて

ここまで見ると、『もうこの分野でやることないじゃん』と思われるかもしれません。 でもこのミクロ相分離、色々な構造が現れるなら、逆に

自分の欲しい構造をつくりだしてやろう。

と考えてみるわけです。たとえば、合成したい分子のサイズにあった大きさをもつCylinder構造は、 どんなブロックポリマーを使ったらできるのか?ということを予言したいわけです。 他にも、(何の役に立つかわからないけど)ミクロ相分離でドラ○もんの顔が現れたら、 面白いと思いませんか?