配属希望学生の皆さんへ

研究内容の概要

私たちのグループは、2021年10月に発足した新しいグループで、電子相関によって発現する新しい物理現象や相転移、機能性を有する量子状態などを予言したり、実験グループと共に、実験結果にどのような面白い現象が潜んでいるかを調べています(共同研究グループについてはPublicationActivityなどをご覧ください)。

磁性や誘電性、超伝導などの機能性の多くは電子間や電子と格子の間の相互作用を起源としています。 私たちのグループは主に、強相関電子系で電子が持つ電荷・スピンに加えて物性に顔を出してくる軌道の自由度(一般には多極子自由度)に注目して研究を行っています。 軌道自由度は特異な物性発現の裏方として重要な役割を果たすことがこれまで知られていましたが、最近では、それ自体の量子ダイナミクスにも面白い特徴があることが認識されています。 私たちのグループでは、そのような軌道自由度自身が待つ電子雲の異方性などの特徴に由来した量子現象に注目して研究を行っています。

研究グループの特徴

物性物理学の魅力は、電子がアボガドロ数個の規模で集まることによって現れる集団的な性質が元の電子とは全く異なる振る舞いをすることです。 これを理解するためには通常の平均場描像を超える必要があります。 もちろん、まじめに量子多体系を解くという方針を取ることも可能ですが、一般に、それには限界がありますので、新しい物理の見方(例えば、これまでとは違った平均場の取り方)が必要になります。 私たちのグループでは、その現象を捉えるシンプルな模型を導入してそれを解析することで、背後に潜む物理を明らかにしようと取り組んでいます。

私たちのグループでは、面白いと考える現象それぞれに対して向き合うことができる手法を選びながら研究を展開しています。 そのため、解析計算と数値計算の両面から様々な計算手法を用いて研究を行っています。 数値計算としては、 解析計算としては、主に場の量子理論を用いています。例えば、 などです。

私たちのグループでは、強相関電子系の中でも特に以下の現象を中心に研究を展開しています。

自発的対称性の破れを伴う秩序状態は電子間相互作用が生み出す最も面白い現象のひとつであり、秩序化に伴う対称性の低下は強誘電性や強磁性といった様々な機能性を物質に付加します。その中でも、電子スピンに基づく現象だけでなく、物質の電子状態の多軌道性(多バンド性)に由来した現象に注目しています。軌道自由度の整列である軌道秩序や電子とホールの対凝縮励起子凝縮などを中心に研究を展開しています。

モット絶縁体とは、通常のバンド理論では金属となるような系であったとしても、強い電子間のクーロン斥力のために絶縁体となってしまう系です。複数の軌道が物性に寄与するモット絶縁体では、スピンや軌道(より一般には多極子)自由度といった複数の電子自由度が物性に顔を出します。これらの系では、秩序状態からの素励起(例えば磁気秩序からの素励起はスピン波もしくはマグノンと呼ばれる)がダイナミクスや輸送現象に主要な寄与を与えます。これを明らかにするため、局在多自由度系のダイナミクスを一般的に取り扱う計算手法の開発を行っています。

量子力学的な揺らぎが顕著な系では、秩序化が抑制され、古典的な秩序では記述できない本質的に新しい量子多体状態が現れます。量子スピン液体や分数量子ホール状態がその代表であり、強い量子多体効果に由来して、もとの電子とは全く異なった非自明な統計性をもつ準粒子(マヨラナ粒子や非可換エニオンなど)が現れます。これは、量子計算にブレイクスルーをもたらすことも期待されています。最近では、実時間発展を用いたエニオンの時空間制御理論にも興味を持って研究を行っています。

電気伝導と熱伝導との本質的な違いはその外場にあります。前者は電場で駆動され、後者は温度差で駆動されますが、温度は熱力学的な量であるため、電場のように粒子に働く力学的な力と考えることができません。これは、場の量子論において熱伝導現象の微視的な定式化に難しさが内在していることを意味しています。温度差によって駆動される熱流が熱伝導ですが、最近ではそれだけでなく、スピン流にも注目してスピントロニクスにも繋がる研究も行っています。

固体中の電子波動関数のトポロジカルな構造は、様々な現象に顔を出します。特に電子バンドのトポロジーは輸送特性と密接に関連するため、熱ホール効果やスピンネルンスト効果など、熱輸送に及ぼす影響を調べています。また、量子スピン液体研究においてもトポロジーは重要な役割を演じます。この状態は、通常の長距離秩序を持たないため、トポロジカルな性質が用いて量子スピン液体の特徴付けが行われています。具体的には、トポロジカル縮退を有するトーリックコードやトポロジカル量子計算への活用が期待されている非可換エニオンに興味を持って研究を行っています。

他にも、周りのグループと共同で第一原理計算を用いた物性予測や超強磁場効果、非平衡量子現象、量子情報に関する研究も進めており、強相関電子系に対して幅広い観点からその特徴を探索しています。
私たちのグループの最近の研究については、Topicをご覧ください。

教育方針

研究室では、週一回のグループセミナーと教科書の輪読を行っています。 また、研究で困っていることなどを共有するため、週一回各学生と面談をしています。 特に、修士課程においては、ある程度の頻度で教員と継続的な議論を行い、できれば修士論文(となる)の内容を学術論文として出版することを目指します。 これまでの所属学生の発表論文はPublication(学会発表などはActivity)をご覧ください。

研究と前提となる計算手法については、学生間(グループ間)で場の量子論のテキストの輪講を追加で行うことで解析計算の知識を身につけます。ここでは、第二量子化などの基本的な知識と、グリーン関数を用いた摂動展開、経路積分、線形応答理論といった内容を勉強していきます。 大学院での授業で学ぶ内容ではありますが、自身で式を追って行間を埋めることで、式変形や近似の意味などの理解が格段に深まります。 また、数値計算に関しては、最近であれば、実装が複雑な数値計算も含めて多くの計算パッケージが整備されていますのでその取り扱いを勉強するということありますが、バンド計算やテンソルネットワークの基本となる計算であるハートリーフォック法や厳密対角化などを理解することも重要です。これらの基本となる計算は一度自分で実装するととても勉強になりますので、研究室内でコードを共有しつつ、コードを書く練習を行っています。

研究環境

東北大学では物理学専攻と関係するGP-spin, GP-MS, AIEなどの大学院プログラムやそれ以外の支援プログラムが充実しており、給付型の奨学金に加えて研究費の支給や学費免除など、博士課程で研究に専念できる大変恵まれた環境にあります(詳しくは理学研究科高等大学院機構のホームページをご覧ください)。 私たちのグループでは博士課程学生すべて(社会人を除く)が学振DCとほぼ同等の給与を得て研究を進めています(2025年3月現在)。

研究室がある青葉山キャンパスは仙台市中心部から離れた緑豊かなところです。物性理論グループでは他グループの学生ともに輪講やセミナー、イベントなどを一緒に行っています。また、物理学専攻の研究グループ(素粒子や物性実験を含む)や工学研究科(応用物理)、物性研究を行うナノテラスなどが青葉山キャンパス内にあるため、幅広い視点で研究を行うことができる環境にあります。 青葉山キャンパスは中心部から離れているものの、研究室のある建物は地下鉄の駅のそばにあり、そこからおよそ10分で仙台駅に行くことができるため、仙台市中心部に出るのも便利です。詳しくはAccessをご覧ください。

最後に

研究室選択においては、学術論文の執筆に至る研究活動を通して自身が成長できる環境であることはもちろんですが、指導教員やグループの雰囲気とマッチングも重要な要素のひとつです。そのため、(私たちのグループに限らず)事前に研究室見学を行うことを強く勧めます。 連絡先はMemberにありますので、少しでも興味をお持ちの方は遠慮なく那須までe-mail等でご連絡ください。
大学院説明会や大学院入試情報(自己推薦入試を含む)に関しては、物理学専攻のホームページをご覧ください。

学振PD希望の方へ

東北大学では、日本学術振興会特別研究員PD等を目指す皆さんが、安心して研究に集中し、研究者としての第一歩を踏み出すために、本学自己財源を用いた給与を加算など、待遇改善や研究活動促進の取り組みを積極的に実施しています。
詳しくは、東北大学の専用ページをご覧ください。